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大阪地方裁判所 昭和35年(行)16号 判決

原告 西川よ志子

被告 浪速税務署長

訴訟代理人 藤井俊彦 外四名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和三四年五月二二日原告に対してなした昭和三三年度分所得税について所得金額を金七五四、九〇〇円とする更正処分のうち金六一〇、〇〇〇円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は、昭和三四年三月一二日被告に対し、昭和三三年度分所得税について所得金額を金六一〇、〇〇〇円、税額を金五四、七〇〇円として申告したところ、被告は同年五月二二日右所得金額を金七五四、九〇〇円、税額を金八三、九〇〇円、過少申告加算税額を金一、四五〇円とする更正処分をなした。そこで原告は、同年六月二〇日被告に対し再調査の請求をしたが、同年九月八日請求を棄却する旨の決定があつたので、同年一〇月九日さらに大阪国税局長に審査の請求をしたところ、同国税局長は同年一二月八日右審査請求を棄却する旨の審査決定をした。しかしながら、原告の昭和三三年度分の所得金額は金六一〇、〇〇〇円であつて、被告のなした右更正処分のうち所得金額六一〇、〇〇〇円を超える部分は違法であるから、その部分の取消を求める。」と述べ、被告の本案前の主張に対し「原告は、本件訴状を昭和三五年三月九日大阪地方裁判所民事部受付に提出したところ、疎明書類として更正処分通知書を添付しなければならないと注意を受け、本訴状を持ち帰つたが、更正処分通知書を紛失していたため、同年三月一三、四日頃浪速税務署に更正処分通知書の再交付を求めたが拒絶された。右のような事情から、原告は、本件訴を出訴期間内に提起することができず、同年三月二三日に到り本件訴状が大阪地方裁判所民事部受付に受理されたものであるが、原告の責に帰すべからざる事由により出訴期間を遵守することができなかつたものであるから、訴訟行為の追完として許容されるべきである。」と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は、本案前の答弁として、主文と同旨の判決を求め、その理由として「本件訴は、所得税法第五一条第二項に規定する出訴期間を遵守しない不適法な訴である。すなわち、所得税法第五一条第二項によれば、更正処分の取消を求める訴は、審査決定の通知をうけた日から三ケ月以内に提起することを要するのであるが、原告は、大阪国税局長が昭和三四年一二月八日附でなした審査決定の通知書を同月一一日受領しながら、更正処分の取消を求める本件訴を右出訴期間経過後である昭和三五年三月二三日に到つて提起したのであるから、本件訴は不適法な訴として却下すべきである。」と述べた。(証拠省略)

理由

本件訴が出訴期間の点について適法であるかどうかについて検討する。

所得税法第五一条第二項は、再調査の請求若しくは審査の請求の目的となる処分(すなわち更正処分)の取消を求める訴は、審査の決定にかかる通知を受けた日から三ケ月以内に、これを提起しなければならないと規定し、同条第四項は、右出訴期間はこれを不変期間とすると規定する。従つて、更正処分の取消を求める訴が右出訴期間経過後に提起されたような場合には、民事訴訟法第一五九条にいう当事者がその責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守すること能わざりし場合に該当しないかぎり、訴訟行為の追完として許容することができず、結局不適法な訴として却下を免れないのである。

本件訴は、被告が昭和三四年五月二二日原告に対してなした昭和三三年度分所得税の更正処分の取消を求める訴であるが、真正に成立した公文書と推定すべき乙第一号証の一、二、第二号証、第四号証、成立に争のない乙第三号証及び証人岡本俊章の証言によれば、大阪国税局長が昭和三四年一二月八日附でなした審査決定の通知書は同月一一日原告に到達したことが認められ、本件訴が右日時より三ケ月を経過した昭和三五年三月二三日当裁判所に提起されたことは本件訴訟記録上明らかであるから、本件訴は所得税法第五一条第二項が規定する出訴期間を経過した後に提起されたものであることが明らかである。

ところで原告は、本件訴が右出訴期間経過されたのは、原告の責に帰すべからざる事由によるものであるから、訴訟行為の追完として許容されるべきであると主張するので検討するに、証人西屋竜門、同中筋和夫、同大形ふでのの各証言を総合すれば、原告において「浪速商工会」なる団体に本件訴の提起を依頼したところ、同団体の職員である中筋和夫は、訴状を作成し、本件訴の出訴期間の点を考慮して出訴期間直前の昭和三五年三月九日頃大阪地方裁判所民事部受付に提出したが、係官より訴訟費用算定の基礎となる事実記載の不備を指摘され、かたがたそのための疎明資料の提出方を勧告されるや、右中筋は、係官の発言の趣旨を確めることなく、不得要領のまま、更正決定通知書を要求するものか、或は訴状記載の不備を指摘するものと了解して右訴状を持ち帰り、更正決定通知書がないところから、訴状を判読し易く書きあらためて、翌日再び訴状を右裁判所民事部受付に提出したが、係官より前同様の注意をうけ、この場合にも係官の発言の趣旨を確めることなく、出訴期間を経過するにもかかわらず、その旨係官に説明することもなく、更正決定通知書を添付しなければ訴状は受理されないものと即断して、右訴状を持ち帰り、遂に出訴期間を徒過したものであることを認めることができる。以上認定の事実によつてみれば、原告より本件訴提起の委任をうけた中筋和夫は、本件訴の出訴期間を知悉しながら、大阪地方裁判所民事部受付係官に対し、その発言の趣旨を確めることも、出訴期間の点を説明することもなく、ひたすら更正決定通知書を添付しなければ訴状は受理されないものと即断し、遂に出訴期間を徒過したものであつて、本件訴を出訴期間内に提起することを右裁判所民事部受付係官によつて妨げられたものでないのであるから、右中筋和夫は不変期間を解怠したことについて過失の責は到底これを免れることはできず、たといそれが原告本人自体の過失に基くものでなくとも、これを以て民事訴訟法第一五九条にいう当事者がその責に帰すべからざる事由により不変期間を遵守すること能はざりし場合に該当するものということはできない。

そうすると、所得税法第五一条第二項に規定する出訴期間経過後に提起された本件訴は、訴訟行為の追完として許容しえないのであるから、不適法な訴として却下すべきものである。よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 阪井いく郎 浜田武律)

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